1項  酸化チタンの基本的性質

 

1.             概要

 酸化チタン(TiO2)は白色顔料や紫外線吸収料としてペンキ、化粧品などの原料に広く使われ、食品添加物としても認められている安価で安全な材料である。一方、酸化チタンはn型半導体性を示し、光電極や光触媒の材料として太陽エネルギー変換材料への応用が注目されている。

酸化チタン薄膜をコーティングした材料は、特別な光源を用意しなくても防汚効果を示す。これは日陰程度の太陽光や、通常の室内での照明光を利用した光化学反応(光触媒反応)により防汚効果や殺菌・抗菌効果、消臭・分解効果などを示すことが知られている。この原理を利用して酸化チタンには非常に多くの利用法が考えられる。抗菌効果のあるタイルや空気清浄用のフィルター、消臭・抗菌蛍光灯、汚れにくいテント膜材、その他様々な利用法がある。

 

2.             結晶構造

 酸化チタンには、アナターゼ(Anatase;鋭錐石)、ルチル(Rutile;金紅石)、ブルカイト(Brookite;板チタン石)の3種の結晶形態がある。このうち、工業的に利用されているのはルチルとアナターゼで、ブルカイトは学術的に取り上げるのみで、工業面の利用はない。

 酸化チタン結晶中の原子の配列は3種の結晶形とも1個のTi原子を中心に6個のO原子が配位し、O原子により8面体の稜が形成されている。ルチル結晶はfig.1のごとく8面体の2稜が共有されc軸方向に鎖状に伸びた構造である。結晶構造を見やすくするために豆細工のように描いているが、電子雲の拡がり空間を入れると、実態はFig.2に示したように大きなO原子の充てんにした隙、間にTi原子がはさまった構造と考える。

 ルチルは前述のようにc軸方向の8面体2稜共有鎖状構造であるが、ブルカイトはFig.3のごとく3稜共有構造、アナターゼは4稜共有の連なった構造である。

 結晶の単位格子ユニットセルは、ルチルがTiO2の化学単位を2個含み、ブルカイトが8個、アナターゼが4個含む構造となっている。3結晶のユニットセルと結晶系のデータを表.1にあげた。ルチルとアナターゼは正方晶系でブルカイトは斜方晶系である。また1モルあたりの体積はルチル、ブルカイト、アナターゼの順に大きくなる。

 結晶構成原子の化学結合のイオン性、共有性についてはPaulingの電気陰性度が広く普及している。Ti-O結合のイオン性は桐山 5 0%、Grant 43%、Beohm 63%など報告があるが、イオン性・共有性ほぼ半々の結合とみられる。また、8面体の稜の共有数が増えるほど、イオン性が減少すると言われており、イオン性はルチル、ブルカイト、アナターゼの順に低下し、共有性が強くなる。

 

結晶特性

アナターゼ

ルチル

ブルカイト

結晶系

正方晶系

正方晶系

斜方晶系

ユニットセルの体積[Å]

136.1

62.4

257.6

1モル当りの体積[Å]

34.0

31.2

32.2

格子定数     a

   [Å]     b

           c

3.785

9.514

4.539

2.959

5.45

9.18

5.15

Ti-Oの

原子間距離

[Å]

 

 

 

平均

1.937 (4)

1.964 (2)

 

 

 

 

1.946

1.946 (4)

1.984 (2)

 

 

 

 

1.959

1.09 (1)

2.04 (1)

1.94 (1)

1.87 (1)

1.92 (1)

2.00 (1)

1.96

表.1 ユニットセルの比較

 

3.             X線回折

 X線回折像は各結晶固有のものであるから、粉末X線回折により物質の同定は勿論のこと、混合物系内から定性的に酸化チタン結晶の有無を検査することも可能である。

 表.2に、酸化チタンの3結晶形の粉末X線回折における格子定数、強度および配当面指数を記載した。

 結晶系により格子定数すなわちX線回折の干渉角度が違うことから、アナターゼ・ルチル混合系の含有率の定量が可能である。

 酸化チタン粉末の微結晶の大きな結晶と形態的に類似である。ルチル微結晶の場合、外部表面は大部分(1 1 0)・(1 0 1)・(1 0 0)面からなり、(1 1 0)面が約60%を占めている。また、アナターゼの場合、(0 0 1)が外部表面を最も多く占めているといわれている。

 

アナターゼ

ルチル

ブルカイト

面指数

格子定数と強度

(Cu,1.5405Å,26°, -27℃)

面指数

格子定数と強度

(Cu,1.5405Å 26° -27℃)

面指数

格子定数と強度

(Cu,1.5405Å 26° -27℃)

kl

[Å]

I

kl

[Å]

I

kl

[Å]

I

101

013

004

112

200

105

 

211

213

204

116

220

215

 

301

303

312

118

217

321

 

226

109

323

316

400

325

 

411

219

228

332

318

327

 

415

309

424

-

-

3.51

2.435

2.379

2.336

1.891

1.699

 

1.665

1.494

1.480

1.367

1.337

1.264

 

1.250

1.171

1.1609

1.0598

1.0510

1.0433

 

1.0173

1.0065

0.9964

0.9550

0.9461

0.9189

 

0.9135

0.8960

0.8894

0.8794

0.8464

0.8311

 

0.8268

0.8100

0.7990

 

 

100

9

22

9

33

21

 

19

4

13

5

5

10

 

3

2

3

1

1

3

 

2

2

1

4

3

2

 

1

3

1

2

2

1

 

3

1

3

 

 

110

101

200

111

210

211

 

220

002

310

301

112

311

 

202

212

321

400

410

222

 

330

411

312

420

421

322

 

103

402

510

213

431

332

 

422

223

303

521

432

3.245

2.489

2.297

2.188

2.054

1.687

 

1.624

1.480

1.453

1.30

1.347

1.305

 

1.243

1.200

1.1700

1.1485

1.1329

1.0933

 

1.0827

1.0424

1.0361

1.0273

-

0.9642

 

-

0.9071

0.9007

0.8892

0.8773

0.8739

 

-

0.8437

0.8290

0.8196

-

100

41

7

22

9

50

 

16

8

6

16

7

1

 

3

1

4

4

1

4

 

4

5

4

3

-

2

 

-

3

3

5

6

5

 

-

5

5

8

-

210

111

211

102

021

202

 

221

410

302

321

312

230

 

421

113

213

231

132

 

3.51

3.46

2.90

2.48

2.42

2.25

 

2.14

2.14

1.971

1.906

1.885

1.695

 

1.666

1.615

1.547

1.500

1.468

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

42

100

46

13

12

15

 

11

11

8

26

12

26

 

33

6

7

6

10

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.2 酸化チタンの結晶解析

4.             化学的性質

 酸化チタンは、アナターゼ、ルチルともに、弗酸、熱濃硫酸および溶解アルカリ塩に溶解するがそれ以外の酸、アルカリ、水、有機溶媒などに溶解しない。

 また、常温・常圧下ではHF、SO、Cl、HSなど反応性の強いガスと酸化チタンは反応することはないが、高温ではHFと反応しTiFとなる。さらに還元剤共存下高温でClなどハロゲンと反応しTiClなどハロゲン化チタンを生成する。また、高温下、H、COなどで還元されて低次酸化物に変化する。

 酸化チタンはこのように特殊条件下では他の物質と反応することはあるが、通常の使用条件ではきわめて安定で、燃焼、暴発などの危険性はまったくない。

 また、製造工程上硫酸法も塩素法も800〜1100℃の熱処理を経ているため、酸化チタン自身は800℃以下の加熱による変質は本質的にない。

 

5.             物理的性質

諸性質は表.3 酸化チタンの結晶系別の物理的に示したとおりである。

(1)電気伝導度

 酸化チタンは室温では完全な絶縁体であるが、これを加熱あるいは紫外線照射など外部から適当なエネルギーを加えるとn型半導体として作用する。この詳細については光触媒反応の項で述べる。

(2)熱転移

 酸化チタンの3結晶形態の中、ルチルが最も安定でアナターゼ、ブルカイトは加熱によりルチルに転移する。転移制御剤や促進剤のない場合、アナターゼは915±15℃以上でルチルに転移しブルカイトは650℃以上でルチルに転移する。

この反応は不可逆であるからアナターゼ、ブルカイトに転移することはない。ルチルはさらに加熱すると1825℃で溶融する。

 

結晶形

ルチル

(Rutile)

金紅関石

アナターゼ

(Anatase)

鋭錐石

ブルカイト

(Brockite)

板チタン石

結晶系

正方晶系

正方晶系

斜方晶系

密度  [g/cm2]

4.27

3.90

4.13

屈折率 nD

c軸に垂直な光

c軸に平行な光

2.72

2.613

2.909

2.52

2.554

2.493

2.63

モース硬度

7.0〜7.5

5.5〜6.0

5.5〜6.0

比熱 [cal/℃・g at 25℃]

0.169

0.169

 

熱伝導率 [cal/cm/sec/℃]

c軸に平行

c軸に垂直

 

0.0200〜0.0216

0.0124〜0.1136

 

 

熱膨張係数 [×10-6/℃]

a軸

c軸

 

7.19

9.94

 

2.88

6.64

 

電気伝導度 [mho/cm]

10-13〜10-14

10-13〜 10-14

5.5 ×10-8 注1)

 

誘電率

114

48

78注2)

融点 [℃]

1825

ルチルに転位

ルチルに転位

 注) 1)at 500℃ 2)a軸方向

.3 酸化チタンの物理的性質

 


第2項               光触媒反応

 

1. 概要

 光触媒反応は、@光吸収による電子と正孔の生成、A電子と正孔の表面への移動と電荷分離、B電子と正孔の捕捉による表面活性種の生成、Cこの活性種により反応が誘起され中間生成物を経て最終の生成物を与える二次的過程に分けられる。

 

2. 酸化チタンの光触媒反応の特徴

TiO2光触媒反応は、

(1)             強い酸化力

(2)             半永久的寿命

(3)             350nmの光が有効

という大きな特徴をもっている。これらについて以下に若干の説明を加えておく。

(1) 強い酸化力

  光励起によってTiO2表面に生じる正孔は、+3.0Vという非常に高い酸化電位を持ち、いろいろな化合物を酸化できる。この酸化電位がいかに強い力を有するかは、水処理などに用いられる塩素(1.36V)や、オゾン(2.07V)などの有する酸化電位と比較すると明らかである。しかも、TiO2表面には必ず水が光励起でできた正孔と反応して生じるOHが実際の活性種と考えられている。このOHが有機物と反応すると最終的には、有機物は二酸化炭素と水にまで酸化される。対となる還元反応は水中あるいは空気中の酸素の還元である。酸素の還元により生成したO2 は過酸化水素を経て、ここでも同じ水酸ラジカル(OH)になったり、或いは水と酸素になると考えられている。この中間生成物OHでも有機物は酸化される。

(2) 半永久的寿命

TiO2光触媒の使用方法という点で、いろいろの基板の上に担持したTiO2光触媒が一つの望ましいシステムである。この光触媒系に対して、光触媒能力が高いことは当然であるが、それ以外にもTiO2が基板に強く付いていること、光を吸収できるに十分な厚さを有していること、用途にもよるが、一般的にはなるべく透明であることなどが要求される。特に、基板に強く付ける点が最も難しい技術を要する。さらに、その光触媒作用が長く続くことである。TiO2 自体は化学的に非常に安定であり、強い酸やアルカリにも溶けず、いろいろな有機溶剤にも不溶である。これらの点でも他の半導体による光触媒材料に比べて長所となっている。TiO2 薄膜自体が固いことも長所となっている。いずれにしろ、TiO2  光触媒の実用を考える場合、用途に応じた寿命をもたせることも考慮する必要がある。

(3) 350nmの光が有効

TiO2 は3.0eVのバンドギャップを持っている。従って410nm以下の波長の光で励起される。太陽光のスペクトルのうち約3%がこれに相当するため、反応すべき量が少ない場合は太陽光を照射するだけで十分である。

人工光源ではどうかというと、蛍光灯にも365nm、407nmの波長の光が含まれており、ブラックライトの場合には好都合にも、人間の眼や皮膚にはダメージを与えない350nmを中心とする光が多い。殺菌や防汚のように、反応させる化合物の数が比較的少ない場合には、蛍光灯やブラックライトからの光でも十分であることがわかっている。

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